INSIGHT

Insight

Nov.

2022

綿密な戦略かトライアルアンドエラーか

TEXT BY

荒金 駿

戦略を無視したトライアル&エラー

「数年後にどうなっているかもわからないような変化の著しい現代においては、戦略に時間をかけるよりも、一にも二にも実行に移すことが大切である」というのがトライアル&エラーを重視する方の主な意見だ。確かに近年パラダイムシフトは高速化しており、流行りのプロダクトやサービスを利用していると思っていても、気づけば時代遅れになっているという例は少なくない。時代の変化に追いつくために、スピード感をもって行動することが重要であることに間違いはない。

しかしながら、失敗路線の中でトライアル&エラーを繰り返すだけでは、ただ時間とお金を浪費するだけである。戦略が不足したが故に、失敗路線に乗ってしまう例をいくつか挙げる。

 

  • 参入企業が多く、激しい競争を強いられる (同様の製品・サービスが既に存在する)

  • プロダクトや技術が先行し、顧客のニーズに合致していない(自社が作れるものだけを作っている)

  • ニッチすぎて将来的な成長を見込めない (自分だけが欲しいと思っている)

  • 次の打ち手につながらず、すぐに息切れしてしまう (出だしが良くても持続しない)

綿密な戦略のリスク

ビジネスは実際にやってみないとわからないという不確定要素が多い。時間をかけて綿密な戦略を練って大仕掛けしても、失敗に終わり取り返しのつかない状況に陥るケースもある。

この手のビジネスの失敗例として有名なのは、アメリカのWebvan(オンラインでの食品雑貨販売企業)である。元アンダーセン・コンサルティングCEOのジョージ・シャヒーンを筆頭に数々の著名なエリートで構成された同社は、巨額の出資金を活かして当時最新のネットの仕組みや巨大な物流センターを構築し、ネットスーパーを打ち出した。しかし結果として5年という短期間で倒産し、巨額の負債を抱える結末となった。原因はいくつか挙げられるが、消費者の購買行動を理解できていなかったことが大きいと考えられる。綿密な戦略をもとに大仕掛けした計画は、実態のニーズに合わない、机上の空論だったのである。

戦略とトライアル&エラーを組み合わせる

「綿密な戦略」と「トライアル&エラー」はどちらも重要であるが、どちらに固執しても駄目でそのバランスが肝心なのだ。戦略がないまま「トライアル&エラー」を繰り返せば、時間とお金を浪費してしまいかねない。一方で戦略に時間をかけ大仕掛けを準備すると、後戻りが利かない大きなリスクを抱える。戦略によって道筋を定め、その中でトライアル&エラーを高速で回す。

戦略で道筋と止め時を決めておく

ポイントになるのは、戦略に描いた道筋に沿って一貫して実行することだ。打ち手につながりがなくバラバラだと、元々の戦略が正しかったかどうかを適切に評価できない。打ち手がたまたま成功・失敗しただけなのかもしれない。戦略で立てた道筋に沿って打ち手につながりを持たせることで、流れるような実行に結び付く。

戦略を実行する際には、失敗の許容範囲と撤退の基準を同時に決めておくべきである。「ここまでの失敗であれば想定内」という線引きを事前に決めておけば、その失敗をポジティブに評価することができる。「失敗は成功のもと」とは言え、評価基準を設けずに失敗を繰り返すと、状況が悪化して取り返しのつかないことになってしまいかねない。

ユニクロが新規事業を試みる際には、サービスの「ご臨終」の基準を決めてから事業を開始する。サイバーエージェントはリリース後4か月の時点でコミュニティなら月間300万PV、ゲームなら月間売上1000万円を超えなければ撤退する、という明確な基準を設けている。許容範囲という線引きを明確にして、それを超える場合は、戦略・実行に何かの落ち度があったものと受け止めて潔く撤退することも大切である。

実行レベルのトライアル&エラー

戦略の道筋と失敗の許容範囲が決まれば、その中でトライアル&エラーを繰り返す。実行レベルにおけるトライアル&エラーの手法として「リーンプロセス」という考え方がある。もともとトヨタ自動車が生産現場で用いた「リーン生産方式」に由来したもので、「仮説」「構築・計測」「検証」「学習」のサイクルを回し、顧客が必要とする製品・サービスを無駄なく効率的にリリースしようとする考え方だ。構築する際には、実用最小限の製品やサービス(MVP: Minimum Viable Product)を投入し、サイクルを高速に回すことがポイントになる。

ANAは2017年からリーンの概念を導入し、スマートフォン向けの座席予約や、空港でのベビーカー・車いすの貸し出しサービスといった細かなサービスを次々と打ち出した。大きな成果につながった良い例だ。

戦略レベルのトライアル&エラー

戦略の道筋上でトライアル&エラーを繰り返すうえで、失敗の許容範囲を超えた場合に必要なことは、戦略そのもののトライアル&エラーに立ち返ることだ。軸足である会社のビジョンに沿って戦略を再立案(=ピボット)することを推奨する。ビジョンとは会社のあるべき姿であり、その軸足から離れるのは会社の在り方を変えることになり、これまでのトライアル&エラーで得た知見を効率的に生かせなくなってしまうからだ。あくまでも軸足を維持しつつピボットすることを基本とし、軸足から離れてトライアル&エラー(=トラベリング)することは避けたい。

まとめ

本稿では下記、①~③の「綿密な戦略」と「トライアル&エラー」を組み合わせた指針を示した。これから新規事業を立ち上げる方、事業の進め方がわからない方へ、少しでも参考になれば幸いである。

 

  1. 会社のビジョンに沿った戦略と実行計画を立て、失敗の許容範囲を決める (綿密な戦略)

  2. 1.の道筋の中で「仮説」「構築・計測」「検証」「学習」のサイクルを高速で回す (実行レベルのトライアル&エラー)

  3. 2.で失敗の許容範囲を超える場合、軸足をもとに戦略をピボットする (戦略レベルのトライアル&エラー)

PREV 戦略か組織か
NEXT ベンダー依存がなぜDXを阻害するのか